事業計画って本当に必要!?

1.VUCA時代にこそ事業計画が求められる

VUCA時代において、経営に柔軟性が求められる中、事業計画が無駄と言われることも多いが、実は適切な計画は今だからこそ必要である。

ビジネス環境が急速に変化する現代では、企業は方向性を見失いがちだ。こうした状況下での事業計画は、組織の軸を定め、従業員が同じビジョンを持つための基盤となる。単なるスローガンではなく、実行可能で共有される事業計画があるからこそ、組織は混乱を避け、前進する力を得るのだ。変化が常態化したVUCA時代には、事業計画がむしろ混乱を防ぐ役割を担っている。

一般的には、VUCA時代には計画の固執がリスクとされ、事業計画の有用性が疑問視されることも多い。変化が速い時代において、計画はかえって組織の足かせになるとされるのだ。しかし、筆者の見解は異なる。確かに固定的な計画はリスクを増すが、事業計画があることで組織はリーダーシップを発揮しやすくなる。また、計画をPDCAに基づき柔軟に見直すことで、計画自体が変化に対応しやすくなる。こうした柔軟な計画運営こそ、混乱を最小限に抑え、組織全体が一貫性を持って動ける強力な道具になる。

VUCA時代の本質は予測困難な変化にあり、その中で事業計画がどのように役立つかが鍵である。急激な変化に対応するためには、PDCAサイクルを事業計画に組み込み、適宜見直しや改善を行うことが重要だ。経営戦略の専門家として、筆者は事業計画が組織の方向性を示し、リーダーシップの発揮を促す基盤であると考える。この視点から、VUCA時代の計画は単なる目標設定ではなく、変化への対応力を組み込んだ柔軟な指針として再評価されるべきである。

2.VUCA時代における事業計画の有用性

事業計画があることで、従業員全員が共通の目標を持ち、組織としての一貫性が保たれる。例えば、計画に基づいて明確なKPI(重要業績評価指標)を設定することで、従業員のモチベーションが向上し、目標達成意識が強まる。また、PDCAサイクルを取り入れ、計画を適時に見直すことで、目標達成のための戦略が持続的に改善されていく。実際に、多くの企業が事業計画を基に、変化に適応しつつも確実な成果を上げてきた。こうした事例は、VUCA時代でも計画が組織の競争優位性を支える有力な要素であることを裏付ける。

著名な経営者ウォーレン・バフェット氏は、「計画なしに動き出すことは、コンパスなしに航海に出るようなものだ」と述べている。バフェット氏の言葉は、どのような変動にも事業計画が組織の羅針盤となることを示しており、VUCA時代においても計画が成長の基盤であることを再認識させる。

リクルートホールディングスは、事業計画に基づく明確なKPI設定とPDCAサイクルを活用し、会社全体で目指すKPIと個人のKPIが連動しており、組織全体で目標達成に向けて行動を統一している。これにより、同社は売上の拡大と競争力向上を実現し、特に人材サービス分野におけるシェア拡大にも成功している。計画が組織の結束力を高め、目標達成の原動力となった好例である。

中小企業でも成功例がある。2021年の中小企業白書によると、ミズ・バラエティ社は、当初は売上15%アップと根拠なく立てていたが失敗し逆に赤字に転落した。反省した社長は、計画の立て方を学び、経営層は損益分岐点と部門別損益を目標とし、数値目標を各従業員に適切に割り当てた。結果、売上が3割低下しても大丈夫な強靭な財務体質を持つ会社に生まれ変わった。利益を生む体質は狙って動かないと達成できない。根拠ある計画を立ててPDCAを回したからこそ、会社を変えることができたのだ。

筆者が関わったある中小企業のM&A案件では、売上に対する利益率が低いことが問題だった。事業計画が豊富だったので、単価と人員配置が適正でないことがすぐにわかり、早期に改善を行い、M&A後にすぐに業績が改善した。この例は、事業計画が経営上の問題を早期発見し、適切な改善策を講じる基盤となることを示している。

中小企業白書(2021年版)によると、経営計画を持つ中小企業は、計画がない企業に比べて利益率が高い傾向が見られる。データでは、経営計画を持つ企業は、計画がない企業に比べて経常利益率が30%高いとされる。経営計画を持つことで、事業の方向性が明確化され、PDCAサイクルを通じた改善が定期的に行われるため、こうした差が生まれている。この事例は、事業計画が経営の成果に直結する重要な要素であることを裏付けている。

3.事業計画のありかた

VUCA時代には、事業計画が硬直化して環境変化に追いつけないのではないか、という異論がある。しかし、この懸念に対しては、PDCAを通じた定期的な計画見直しで柔軟性を確保することが可能だ。また、「VUCAの時代には計画自体が無意味」という声も聞かれるが、筆者はむしろ計画こそが変化に対する指針になると考える。さらに、計画が現場の自由度を制限する可能性についても、基本的な方向性を示すフレームワークとして活用すれば、現場の創造性を損なわずに済む。

「創業したての個人事業でも事業計画が必要か?」。ここは議論があるかもしれない。最初は顧客もおらず、商品も完成していないので、「細かいことは言わずに、まずは大量行動して顧客をつかまえることが大切」という考え方も理解できる。この場合でも、どれだけ行動したらどれだけの顧客を獲得できたのか?を記録することには価値がある。さらに、どれだけ売上0で耐えられるか?は事前にわかっていないと怖くて独立できるものではない。精緻なものは必要ないが、おおまかな計画は時間をかけずに当初から立てた方がよいだろう。

変化が激しい時代こそ指針が必要。事業の精度を上げ、従業員をまとめるためにも事業計画の策定は必要である。

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